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沢木耕太郎「テロルの決算」で描かれた浅沼稲次郎の暗殺


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久しぶりの沢木耕太郎

僕は沢木耕太郎という作家さんが好きです。

とは言え、たくさん出ている沢木耕太郎作品の中で、僕が読んだことがあるのはほんの一部。10作品に満たないくらいかとは思います。

ですので、そんなレベルで「好き」だなどと言ってしまいますと、生粋の沢木耕太郎ファンからは怒られてしまいそうですが…。

僕が初めて読んだ沢木耕太郎さんの本は「深夜特急」です。

「深夜特急」はかなり知られた本かとも思いますし、読んだことある人も多いのではないかとい思います。ドラマにもなったりしていましたし。

僕は20歳くらいの頃に友人から勧められて「深夜特急」を読み、ハマりました。文庫だと全6冊あるのですが、いっきに読んでしまった覚えがあります。もう今から20年ほど前ですね。

「深夜特急」は、バックパッカーの物語です。沢木耕太郎さん自身の旅行体験が書かれたもので、インドのデリーからイギリスのロンドンまで、バスを乗り継ぎ旅する様子が描かれているのですが、もう面白いのなんのって。笑

すっかり深夜特急に魅せられた僕は、バックパッカーに憧れたりもしました。笑

 

深夜特急で沢木耕太郎という作家さんを知った僕は、それから沢木さんの小説を何冊か読むことに。失礼ながら、古本屋さんで見つけたものを読むと言った感じがありましたが。

そしておそらくこれまでに読んだのは10冊前後かとは思います。

しばらくそんな感じで沢木さんの本を立て続けに読んでいた僕ですが、その頃に文庫になっていたものはそこそこ制覇してしまったためか、以降は沢木作品を読む機会がないまま、気が付けば20年ほど経っていました。

深夜特急を読んだのが20歳頃。今は40過ぎのおっさんです。

そんな僕が、約20年振りに「深夜特急」と再会してしまいました。

友人が深夜特急を読んでいて、「なつかしいな~」と思いながら何気なくページをめくったところ、面白くてまた読み始めてしまったんです。笑

さらには、当時はまだ出ていなかった「旅する力~深夜特急ノート」なる、深夜特急に出掛ける前のエピソードとか、そういった色々が書かれているものまで出ているではないですか。

 

そんな新しく出ていた一冊はもちろん、友人から「深夜特急」を全て借り、約20年振りに全巻読破しました。

そしてやっぱり「深夜特急」は、超面白かったです。これは名作です。

久しぶりの沢木耕太郎にテンションが上がってしまった僕は、また古本屋(おもにブックオフですが)で沢木耕太郎さんもチェックするようになります。

少々前置きが長くなってしまいましたが、今日はそんな中で読んだ、「テロルの決算」について書きたいと思います。

 

沢木耕太郎「テロルの決算」とは

沢木耕太郎さんの「テロルの決算」を読みました。

僕はこのタイトルだけは以前から知っていて、ずっと気にはなっていた本です。そんな気になっていた本を、この度ようやく読み終わりました。

「テロルの決算」は、実際に日本で起きた政治家の暗殺事件を扱った、ノンフィクション作品です。

その事件は、1960年(昭和35年)10月12日に東京の日比谷公会堂で起こった「浅沼委員長刺殺事件」です。

僕が生まれる前の事件ですし、そんな事件があったことすら僕は全く知りませんでした。

暗殺されたのは、当時の日本社会党の委員長だった浅沼稲次郎(あさぬまいねじろう)

一方、暗殺を実行したのは、当時17歳だった右翼の少年山口二矢(やまぐちおとや)です。

大勢の聴衆がいる中で、政治家が演説中に刺殺されるというショッキングな事件であり、当時は大きな話題にもなったようです。

また、犯行の瞬間もカメラに収められていたことにより、様々な波紋を呼んだ事件でもあります。

「テロルの決算」は、その浅沼委員長刺殺事件を、時間を追って細部まで描いている作品です。

被害者である浅沼稲次郎と、加害者である山口二矢

この二人が歩んだ人生を、それぞれ追いかけていく形で物語は進行していきます。

浅沼稲次郎の生い立ちから政治家になるまで。そして政治家としてどのような道を歩んだのか。

山口二矢の生い立ちから、右翼思想に染まるまで。犯行を決意するに至る過程。

そして最後に、この二人の人生が交わる一点

それが「浅沼委員長刺殺事件」なんです。

全く接点のなかった二人の人間が、唯一交わった暗殺の瞬間

「テロルの決算」は、二人の人間が歩んだ別々の人生と、ただ一つ交わってしまった暗殺事件。それが描かれた作品です。

 

「テロルの決算」の感想

「テロルの決算」を読み終わっての僕の率直な感想ですが、「難しかった」というのがまず本音です。

「深夜特急」などで、僕の中で沢木耕太郎さんの書くものは、「読みやすい」ものだと刷り込まれていました。どれもとてもすらすら読めるものだった覚えがあったので。どちらかと言うと「軽く読める」ようなイメージですね。

しかし「テロルの決算」は、読みやすくもなく、軽くもなかったんです。笑

どちらかと言いますと「少々読みづらかった」部類に入ります。読み始めてすぐに「あ、これはちょっと読みづらいやつかも」と思ってしまいました。笑

もちろん個人的な感想ですが。

おそらくこの本は、めちゃくちゃ詳しく事実を調べて書かれています。相当な時間と労力が費やされているかとも思われます。

暗殺事件について全く知らない僕が言うのもなんですが、ある意味で「資料」と言っても良いのでは?と思えてしまうほど、詳しく書かれているノンフィクションなんです。

それ故に、登場人物もめちゃめちゃ多く、とても全員を把握するのは無理です。おそらくその必要もないかとも思うのですが。

「テロルの決算」は、沢木耕太郎さんの作品で僕がこれまで読んだもの(多くはありませんが)の中で、一番読むのに時間が掛かり、難しい作品でした。

しかしです。

不思議なことに、とても印象に残る本だったんです。

読み終わった後に、「浅沼委員長刺殺事件」についてもっと知りたくなってしまい、すぐにネットで情報を集めたりもしてしまいました。

また、本の中には実際の事件の写真などは掲載されていません。前列にいた毎日新聞社の長尾靖カメラマンが撮影した写真は、日本人初のピューリッツァー賞を受賞したそうです。それを知ってしまったら、やっぱりその写真はどうしても見てみたくなってしまいます。

こちらが、事件の瞬間の写真です。ニュースサイトより引用させて頂きました。

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(画像出典:natgeo.nikkeibp.co.jp)

 

こちらは、事件の被害者である浅沼稲次郎氏です。彼はほぼ即死状態だったそうです。

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(画像出典:hal1.net)

 

そしてこちらが、犯人の山口二矢です。当時17歳です。

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(画像出典:twitter.com)

山口二矢は事件後、東京少年鑑別所で首吊り自殺をして、その生涯を終えています。

小説を読んだ後にこうして写真を見ますと、読んだばかりの事件、登場した人物が、全部現実だったんだな~と、不思議な気持ちにもなります。

政治家が演説中に右翼の若者により暗殺された「浅沼稲次郎暗殺事件」。こんな事件が戦後の日本で起こったことを、この本がなければ僕は知らないままでした。

読んだ後に改めて事件の詳細をネットで見たり、写真を見たりしたことで、僕の中で「テロルの決算」が、さらに印象的なものになった気がします。

僕はだいたいですが、平均しますと3日に一冊くらいのペースで本を読んでいます。

通勤電車が僕の読書タイムです。

ですので月に10冊前後の本を読んでいることになりますが、そんな中でも「特に印象に残るもの」というのが一定の割合であります。

「テロルの決算」については、ここまでさんざん「難しい」だの「読みづらい」だの書いてしまいましたが…笑。なぜか「特に印象に残るもの」の一冊になりました。

このブログで書きたくなってしまうくらいに。人に勧めたくなるくらいに。

テロルの決算」、是非読んでみてください。

読みやすい本ではありませんが、お勧めです!笑

 

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